悪役令嬢に転生したけど推しが中の人だった件について
第8章 市場に行こう!
市場の賑わいを後にして、みんなと別れたあと。
私は少し名残惜しくて、胸の奥がまだ弾んでいた。髪飾りを揺らしながら歩いていると――。
「ヴァイオレット」
背後から呼ばれて振り返ると、ルシアンがいた。人混みから離れた静かな路地で、彼は少し照れたように笑っていた。
「さっきの店で……君に渡したいものがあるんだ」
そう言って、彼は小さな箱を差し出した。
開けると、中には繊細な銀のネックレス。光を受けて、宝石がきらりと揺れる。
「君に似合うと思って……こっそり買っておいた」
どきん、と心臓が跳ねた。
(え、え、え……! ルシアンが、私にだけ……!? キャー! キャピキャピすぎる!)
頬が熱くなって、言葉がうまく出てこない。
「……ありがとうございます。すごく、嬉しい……ですわ」
やっと絞り出した声は震えていた。
ルシアンは優しく微笑み、私の首元にそっとネックレスをかけてくれた。指先が触れた瞬間、さらに心臓が跳ねる。
(近い! 近い! こんなの、ゲームのイベントシーンじゃない!)
市場の喧騒から離れた静かな場所で、私だけに贈られた特別なプレゼント。
胸の奥でトキメキが止まらなくて、夏の夜風まで甘く感じられた。