悪役令嬢に転生したけど推しが中の人だった件について
第8章 市場に行こう!
夏の陽射しの下、五人は街へと向かう。
豪奢な屋敷から飛び出し、賑やかな市場へ――。
庶民と貴族の境界が少しずつ溶けていく、そんな夏の始まりだった。
街は夏の市で賑わっていた。人の声、屋台の呼び込み、香ばしい匂い――全部が眩しくて、胸が弾む。
私はふと足を止めた。目の前に並ぶのは、小さな宝石屋。値段は安いのに、光を受けてきらりと輝く石たちはとても質が良さそうだった。
「アメリア、見て。これ、色違いの髪飾り……一緒に買わない?」
そう言うと、アメリアの瞳もぱっと輝いた。二人で並んでつけたら、きっと楽しいだろう。
しかし、アメリアはしゅんとして肩を落とすと
「ヴァイオレット様、あの品は私には高価で買えません。すいません……」
と俯いてしまった。
やってしまったー!
わたしは今は公爵令嬢だが、アメリアは庶民。
金銭感覚の違いに今頃気付くなんてー!
「あら、では私からプレゼントさせて下さいな。いつも仲良くしてくださってるお礼ですわ」
スラスラと言葉が出てくる。
よっしゃー!偉いぞ!お嬢様チート!
けれど、その瞬間――ルシアンが静かに近づいてきて、柔らかく微笑んだ。
「それなら、僕からの贈り物にさせてほしい。二人に似合うと思うから」
そう言って、私とアメリアに髪飾りを手渡してくれた。
胸がどきんと跳ねる。嬉しい、でも少し照れくさい。
そして、彼が店の奥で何かを選んでいるのに気づいた。
……こっそり、誰かにネックレスを買っている。
(え、え、え……!もしかして私のプレゼント!?そんなの、反則じゃない?
推しからプレゼントなんて、お風呂入っててもつけますよ!あ!そう言えば、髪飾りもプレゼントだった!――一生身につけます)
アメリアは隣で笑っているし、レオンは軽口を叩いて場を盛り上げてくれる。ユリウスは少し離れた場所で腕を組み、風のように静かに見守っている。
気づけば、私はゲームの主人公みたいにキャラクターたちに囲まれていた。
(なにこれ……ハーレム状態? キャピキャピしすぎて心臓がもたない!)
頬が熱くなるのを隠しながら、私は髪飾りをそっと髪に差した。
市場の喧騒の中で、私の夏は一層きらめいていた。
市場の賑わいを後にして、みんなと別れたあと。