悪役令嬢に転生したけど推しが中の人だった件について
第6章 ユリウス・ローゼン
その言葉に、私は深く息を吸った。
魔力を整え、闇の刃の軌道を描く。
彼の手が離れても、感覚は残っていた。
訓練が終わった後、彼は一言だけ残して去っていった。
「……よくやった。次は、もっと高い精度を目指せ」
(え、え、え、え!?褒められた!?兄様に!?推し声で!?)
──好感度+20、確定。
でも、令嬢としては微笑みを崩さない。
心臓が跳ねても、スカートの裾は乱さない。
夜のローゼン邸。
館の廊下は静まり返り、書斎の扉だけがほのかに灯っていた。
「兄様、失礼いたします」
私は、そっと扉をノックして入った。
ユリウス・ローゼンは、分厚い書類に囲まれていた。
金髪は整えられ、眼差しは鋭く、姿勢は完璧。
まるで肖像画の中の人間のよう。
「……何か用か?」
「いえ。ただ、少し……お話がしたくて」
彼はペンを置き、視線をこちらに向けた。
その瞳は冷静で、でもどこか、疲れていた。
「……座れ」
私は、彼の向かいの椅子に腰を下ろした。
書斎の空気は静かで、魔力の気配すら感じないほど整っていた。
「……最近、よく来るな」
「兄様とお話しすると、落ち着ち付きますのでつい……」
「……そうか」
その言葉に、彼はほんの少しだけ目を伏せた。