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悪役令嬢に転生したけど推しが中の人だった件について

第6章 ユリウス・ローゼン


けれど、彼はもう背を向けていた。

(え、なにそれ……え、え、え、え!?
それって、もしかして……優しさ!?)

──語彙力が死んだ。
でも、令嬢としては微笑みを崩さない。
心臓が跳ねても、スカートの裾は乱さない。

(これは……好感度、上がってるのは私の方じゃん……!)

 ローゼン家の中庭。
秋の風が吹き抜ける午後、私は魔力制御の自主訓練をしていた。
闇属性の魔力を安定させるには、集中と感情の均衡が必要。
でも、今日はなぜかうまくいかない。

「……集中が甘い。魔力が散っている」

背後から、低く響く声。
振り返ると、ユリウス・ローゼンが立っていた。
完璧な制服姿。冷静な瞳。
そして──2番手推し声。

(ちょ、ちょっと待って……今の「集中が甘い」って、神原隼人ボイスで言われた……!)

「……すみません。少し、気が逸れてしまって」

「理由は?」

「……その、風が気持ちよくて……」

「言い訳だな」

(はい、語彙力死亡。でも、叱られてるのに嬉しいって何!?いつの間に私ドMに!?)

ユリウスは無言で私の手を取った。
その手は冷たくもなく、温かくもなく、ただ“確か”だった。

「魔力の流れを感じろ。
お前の魔力は、感情に左右されやすい。
……それは、弱さではない。だが、制御できなければ脅威になる」

彼の手が、私の手の上に重なる。
魔力が、静かに共鳴する。

(え、え、え、え!?手、重ねてる!?
しかも、魔力共鳴!?それって、実質スキンシップじゃん!?)

「……君は、変わったな。
以前のお前なら、こんな訓練にすら文句を言っていた」

「今の私は……少し、違うかもしれませんわ」

「……そうか。ならば、見せてみろ。
“今のヴァイオレット”が、どこまでやれるか」

その言葉に、私は深く息を吸った。
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