悪役令嬢に転生したけど推しが中の人だった件について
第6章 ユリウス・ローゼン
それは、感情を隠す仕草だった。
(ちょ、ちょっと待って……今の「そうか」、神原隼人ボイスで言われた……!
低音で、静かで、でも優しさが滲んでて……語彙力、死んだ)
「……昔のお前なら、こんな風に話しかけてくることはなかった。
変わったな、ヴァイオレット」
「ええ。少し、変わったかもしれませんわね」
「……その変化が、良いものならいいが」
彼は、机の上の書類を片付けながら、ぽつりと呟いた。
「お前は、無理をする。
昔からそうだ。
……誰にも頼らず、すべてを背負おうとする」
その言葉に、私は思わず息を呑んだ。
彼は、私の“中身”が変わったことに気づいているのかもしれない。
でも、それを責めるのではなく、ただ“見守っている”。
「……兄様は、私のことをよく見てくださっていたのですね」
「当然だ。お前は、ローゼンの名を背負う者だ。
……そして、俺の家族だ」
その瞬間、心臓が跳ねた。
(え、え、え!?今、“家族”って言った!?
しかも、あの声で!?それって、実質告白じゃない!?)
でも、令嬢としては微笑みを崩さない。
スカートの裾を整え、姿勢は保つ。
「……ありがとうございます、兄様。
その言葉、とても……嬉しいですわ」
彼は、書類の束を閉じて、静かに立ち上がった。
「……今夜は、もう休め。
明日の講義に備えておけ」
「ええ。おやすみなさいませ、ユリウスお兄様」
扉を閉じた瞬間、私は壁にもたれて崩れ落ちた。
(無理無理無理……好感度+30くらい跳ねた……!
ルシアンが本命でも、兄様は2番手推しの座を揺るがす破壊力……!)
──でも、令嬢としては明日も優雅に振る舞う。
だって私は、推しにも兄様にも誰からも好かれる令嬢になるって決めたんだから。