悪役令嬢に転生したけど推しが中の人だった件について
第5章 ノエル・アルベリッヒ
でも、私は知っている。
彼の好感度を上げるには、“理論では説明できない現象”を提示するのが一番だ。
だから、私は口を開いた。
「……実は、誰にも話してないんですが……」
ノエルの指がページをめくる途中で止まった。
私は、少しだけ声を落として続ける。
「乗馬の訓練中に、馬に蹴られてしまって……。
それ以来、時々……誰かの記憶が入り込んでる気がするんですの」
沈黙。
彼は、ゆっくりと顔を上げた。
「……記憶の混入?」
「ええ。夢の中で知らない人の人生を見たり、
魔力の流れが、以前とは違うように感じられたり……」
ノエルの瞳が、わずかに細められた。
それは、興味の兆しだった。
「……君の魔力は、確かに異質だ。
感情波動が不安定で、記憶干渉の痕跡がある。
だが、外傷由来の記憶混入は、理論上ありえない」
「……でも、起きてしまったんですの。
だから、私……自分が“誰か”じゃない気がして」
その言葉に、ノエルは本を閉じた。
そして、静かに言った。
「君を、観察したい」