悪役令嬢に転生したけど推しが中の人だった件について
第3章 ルシアンと神楽坂蓮
――そんな俺の前に、彼女は現れた。
「公爵様。もしよろしければ、私と踊っていただけますか?」
講堂がざわめいた。
当然だ。ルシアン・ヴァルモンは、誰の誘いも断ることで有名だった。
それは“設定”でもあり、“俺の選択”でもあった。
けれど、彼女の声を聞いた瞬間、俺は断れなかった。
「……君が、そう言うとは思わなかった」
気づけば、手を差し出していた。
魔法礼儀演習。
春の光が差し込む講堂で、俺たちは向かい合っていた。
ルシアン・ヴァルモンとしての俺。
そして、ヴァイオレット・ド・ローゼンとしての彼女。
手を取る。
魔力が交差する。
舞踏の所作に従い、足を運ぶ。
それだけのはずだった。