悪役令嬢に転生したけど推しが中の人だった件について
第3章 ルシアンと神楽坂蓮
けれど、彼女の手は少しだけ震えていた。
その震えは、演技では隠しきれない“本音”のように感じられた。
(君は、誰かを演じている。
でも、その演技は……俺の知っている“演技”とは違う)
俺はプロの声優だった。
感情を乗せる技術には自信がある。
だからこそ分かる。
彼女の所作には、技術ではなく“意志”がある。
――この舞踏を、失敗したくない。
――この瞬間を、壊したくない。
その想いが、指先から伝わってくる。
俺は、彼女を知らない。
面識もない。
ただ、彼女の声に、どこか聞き覚えがあった。
それは、ファンレターの一節か。
イベントで交わした言葉か。
それとも──ただの錯覚か。
でも、確かに感じた。
彼女は、台本の中のヴァイオレットじゃない。
俺が知っていた“キャラクター”ではない。
(君は、俺を“攻略”しようとしているのか?
それとも、“俺自身”を見ているのか?)