悪役令嬢に転生したけど推しが中の人だった件について
第3章 ルシアンと神楽坂蓮
俺は、神楽坂蓮。
声優として、それなりに名が知られるようになった。
最初は端役ばかりだったけど、気づけば主演も増えて、イベントに呼ばれることも多くなった。
ファンレターも届く。SNSでは「蓮くんの声で泣いた」とか「低音で殺される」とか、ありがたい言葉が並ぶ。
でも、正直なところ、俺はずっと迷っていた。
──俺の声は、誰かの“理想”を演じるためのものだ。
それは、俺自身じゃない。
演じるたびに、俺は“誰か”になっていく。
冷静な王子、狂気の科学者、優しい兄。
どれも俺の声で、俺の感情で、でも“俺”じゃない。
そんなある日、マネージャーが言った。
「次の仕事、乙女ゲームのメイン攻略キャラ。タイトルは『薔薇と罪の舞踏会』。氷属性の公爵役だ」
氷属性。孤高。冷徹。
──俺の得意分野だ。
台本を読んだ瞬間、息が止まった。
ルシアン・ヴァルモン。
完璧すぎる設定。
冷たいけれど、心を許した相手には激重愛を注ぐ。
しかも、婚約者との確執、魔法暴走、舞踏会での選択……。
「……この役、俺に来たのか」