悪役令嬢に転生したけど推しが中の人だった件について
第2章 主人公と友達になろう!
でも……
踊った。
推しと。
ルシアン・ヴァルモン公爵と。
この手で。この距離で。この空気で。
──無理。無理無理無理。尊すぎて無理。
彼の手が、思ったより温かくて、
彼の瞳が、思ったより深くて、
彼の声が、思ったより低くて柔らかくて、
もう、全部が“神楽坂蓮”だった。
(これ、現実?本当に現実?)
ゲームの中で何度も見た“好感度+20”の舞踏イベント。
でも、画面越しじゃ分からなかった。
彼の魔力が空気を冷やして、白い霧が足元に広がるなんて。
彼の手が、私の腰に添えられる瞬間、魔力がふわっと共鳴するなんて。
(ちょっと待って、魔力ってこんなに尊いの!?)
しかも、彼が言った。
「……君は、本当にヴァイオレットなのか?」
──え、ちょっと待って。推しが“違和感”感じてる!?
それって、私の中身が“しおり”だって、気づきかけてるってこと!?
それって、運命じゃない!?
それって、選び合うフラグじゃない!?
(いや、落ち着け私。今はまだ“好感度+20”の段階。
ここで暴走したら、逆に破滅フラグだぞ)
でも、無理。
推しが目の前で、私の変化に気づいてくれてる。
しかも、手を取ってくれてる。
しかも、踊ってくれてる。
しかも、魔力が共鳴してる。