悪役令嬢に転生したけど推しが中の人だった件について
第2章 主人公と友達になろう!
破滅フラグ立ててたまるか!
「きゃっ……!」
廊下の角で、誰かがぶつかってきた。
書類が床に散らばり、少女が慌てて頭を下げる。
「す、すみません!私、急いでいて……!」
その顔。
栗色の髪に、澄んだ青い瞳。
ゲーム主人公、アメリア・ブランシュ。
「……大丈夫?」
私はしゃがんで、彼女の書類を拾い集めた。
周囲がざわめく。
「ヴァイオレット様が……庶民に……?」
でも、気にしない。破滅フラグより、推しに好かれる方が大事。
「あなた、特待生のアメリアさんよね?初めまして。ヴァイオレット・ド・ローゼンです」
「え……あ、はい!初めまして……!」
アメリアは驚いたように目を見開いた。
ゲームでは、ここでヴィオレッタが
「庶民が学園に来るなんて」と嫌味を言う。
でも私は、微笑んで言った。
「あなたの努力、素晴らしいと思うわ。学園での生活素晴らしいと思うわ。良かったら、仲良くしてくださらない?」
私はありったけの愛想を込めて微笑んだ。
アメリアの瞳が、ぱっと輝いた。
私とアメリアは握手をかわし、ひとまず『友達』になった。
よし!破滅フラグ、回避成功。
「よし!第一関門突破。これで、ルシアンに“嫉妬する婚約者”って思われずに済む……はず!」
でも、廊下の奥でそのルシアン公爵がこちらを見ていた。
氷のような瞳が、ほんの少しだけ揺れていた。
「……君は、本当にヴァイオレットなのか?」
その視線に、私は背筋を伸ばした。
攻略サイトなしの世界で、私は自分の言葉と行動で、推しに好かれてみせる。
王立魔法学園『アカデミア・グランヴェール』。
春の光が差し込む講堂には、貴族令嬢と子弟たちが整列していた。
今日の授業は「魔法礼儀演習」。
魔法を用いた舞踏の所作を学ぶ、貴族教育の華とも言える科目。
しおり――いや、ヴァイオレット・ド・ローゼンとして生きる私は、緊張で指先が冷えていた。