悪役令嬢に転生したけど推しが中の人だった件について
第19章 神楽坂蓮としおり
夢でも現実でも、彼女を見失わないために。
蓮さんの指先が、そっと私の肩に触れた。
安心させるような温もりが伝わってきて、胸の奥で張り詰めていたものが少しずつ解けていく。
「君がどんな姿でも、俺は見つける。
だから……安心していい」
その囁きに、涙が零れそうになった。
必死にこらえながら、私は唇を噛みしめる。
――でも、このまま黙っていたら、彼の想いに応えられない。
私は深く息を吸い、震える声で言葉を返した。
「……ありがとうございます。
夢でも、現実でも……あなたが見つけてくれるなら、私はもう迷いません」
彼の瞳を見返す。
そこには氷の公爵の冷徹さではなく、神楽坂蓮としての温もりが宿っていた。
その眼差しに支えられながら、私は続けた。
「わたし……藤咲しおりとして、ここにいます。
でも、ヴァイオレットとしての私も、確かにあなたに出会いました。
どちらの私も、あなたに見つけてもらえたことが……嬉しいです」
言葉を吐き出すと同時に、胸の奥が熱くなった。
涙は零れなかった。
けれど、心の奥では確かに泣いていた。
それは悲しみではなく、感謝と安堵の涙だった。
私は小さく微笑み、彼の温もりを受け止めた。
――この約束は、夢でも芝居でもない。
現実の私に向けられた、確かな絆の証なのだ。
彼女の言葉が胸に染み込んでいく。
「……ありがとうございます。夢でも、現実でも……あなたが見つけてくれるなら、私はもう迷いません」
その瞳は涙を堪えながらも、確かな光を宿していた。
俺はその光を見つめ、さらに踏み込んだ約束を交わそうと口を開いた。
「しおりさん……次は――」
その瞬間。
――コン、コン。
楽屋の扉がノックされた。
静かな空間に響く音が、まるで現実の境界線を突きつけるように。
彼女の肩が小さく震える。
俺も思わず言葉を飲み込んだ。
約束の続きを紡ぐ前に、現実が割り込んできたのだ。
「蓮さん、次の段取りの確認です」
外からスタッフの声がする。
胸の奥で、緊張と余韻がせめぎ合う。
言葉にできなかった約束が、空気の中に漂ったまま消えずに残っている。
俺は彼女を見つめ、静かに微笑んだ。
「……続きは、また後で」
彼女の瞳が揺れ、頷いた。