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悪役令嬢に転生したけど推しが中の人だった件について

第19章 神楽坂蓮としおり


「もう、迷わない。あなたが見つけてくれるなら」

涙は零れなかった。
けれど、心の奥では確かに泣いていた。
それは悲しみではなく、感動と安堵の涙だった。

彼女の瞳が揺れていた。
必死に涙をこらえ、唇を噛みしめている。
その姿は、夢で見たヴァイオレットと重なって――胸の奥が締め付けられた。
 

「……はい。約束、受け止めました」

 
震える声でそう告げる彼女。
その言葉に、俺の心臓は強く打った。

――泣かせたくない。
でも、涙をこらえるその姿が、あまりにも健気で美しかった。

俺はゆっくりと手を伸ばした。
観客もスタッフもいない、楽屋の静けさの中で。
彼女の頬に触れるのではなく、まず肩に。
そっと、安心させるように。

 
「……もう、無理にこらえなくてもいい」

 
囁くように言葉を落とす。

彼女が驚いたように目を見開く。
その瞳の奥に、確かに“しおり”と“ヴァイオレット”が同時に存在していた。

俺はさらに一歩近づき、指先で彼女の頬に触れた。
温もりを確かめるように、優しく。
涙は零れていなかった。
けれど、その震えを受け止めるだけで十分だった。

 
「君がどんな姿でも、俺は見つける。
だから……安心していい」
 

彼女の唇が震え、やがて小さな微笑みが浮かんだ。
涙はこぼれなかった。
けれど、その瞳の奥で確かに光が揺れていた。

俺はその光を見つめながら、そっと触れ続けた。
夢でも現実でも、彼女を見失わないために。
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