悪役令嬢に転生したけど推しが中の人だった件について
第19章 神楽坂蓮としおり
その言葉は、観客にもスタッフにも届かない。
彼女にだけ伝えた秘密の約束。
彼女の唇が震え、やがて小さな微笑みが浮かんだ。
その瞬間、壁は少しだけ崩れた気がした。
「だから、約束しよう。
次に君が迷った時、俺は必ず君を見つける。
舞台の上でも、夢の中でも、現実でも。
君がヴァイオレットであろうと、しおりであろうと――俺は君を見失わない」
その言葉が、静かに胸の奥に落ちていった。
まるで夢の中で交わした言葉が、現実に重なったように。
――あぁ、やっぱり。
この人は、ルシアンであり、神楽坂蓮であり、そして私の物語の鍵なんだ。
胸が熱くなり、視界がじんわりと滲む。
涙がこぼれそうになる。
でも、ここで泣いてしまったら、せっかくの再会が涙に濁ってしまう。
必死に唇を噛みしめ、呼吸を整える。
「……はい。約束、受け止めました」
声が震えた。けれど、確かに言葉になった。
彼の瞳を見返すと、そこには氷の公爵の冷徹さではなく、蓮としての温もりが宿っていた。
その眼差しに支えられながら、私は涙を堪えた。
――この約束は、夢でも芝居でもない。
現実の私に向けられた、確かな絆の証。
胸の奥で静かに呟く。
「もう、迷わない。あなたが見つけてくれるなら」