悪役令嬢に転生したけど推しが中の人だった件について
第19章 神楽坂蓮としおり
「……行くしかないだろう」
舞台に立てば、彼女がいるかもしれない。
夢と現実が交錯する瞬間を、俺は確かに迎えようとしている。
期待と緊張に苛まれながらも、胸の奥には確かな決意があった。
――この物語を終わらせるために。
そして、彼女と再び絆を繋ぐために。
舞台照明が暗転し、開始の合図が鳴る。
俺はルシアンとしてのセリフを口にした。
「俺と共にいこう!婚約者どの」
これはルシアンルートのハッピーエンドの言葉。
芝居形式で進行するイベントの幕開け。
観客の歓声が波のように押し寄せる。
――その時だった。
最前列のど真ん中。
そこに座る一人の女性の姿が、まるで浮かび上がるように目に飛び込んできた。
凝視するように俺を見つめる瞳。
その瞬間、ほんの僅かに目が合った気がした。
胸の奥が熱くなる。
夢で見た彼女――ヴァイオレット=彼女。
あの涙、あの微笑み。
すべてが重なって、目の前の現実に溶け込んでいた。
「……いる」
心の中で呟く。
観客席のざわめきの中、彼女だけが鮮やかに浮かび上がって見える。
大人気声優としての俺を見つめる視線。
だが、その奥に確かに“彼女”を感じた。
夢ではなく、ここにいる。
この舞台で、俺と彼女の物語は続いている。
歓声に紛れて、胸の奥で喜びが膨らむ。
――彼女に会えた。
この舞台が、ただのイベントではなく、再会の場になった。
俺はルシアンとしての微笑を浮かべながらも、瞳の奥では蓮としての熱を隠しきれなかった。