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悪役令嬢に転生したけど推しが中の人だった件について

第18章 本当の自分へ


この瞬間だけは、役でもキャラクターでもなく、確かに“私”だった。

夜風が木々を揺らし、月明かりが彼女の横顔を照らしていた。
ヴァイオレット――いや、“彼女”が差し出した手を取った瞬間、俺は悟った。
これはただの舞踏ではない。
世界に別れを告げるための、最後の選択なのだ。

 
「ルシアン様。エンディングにふさわしいダンスを踊って頂けませんこと?」

 
挑発的でありながら、どこか切なげな響き。
その言葉に、胸の奥で神楽坂蓮としての自分が応えた。

 
「喜んで。我が婚約者どの」

 
唇を彼女の手に落とし、氷の公爵らしからぬ熱を込めて微笑む。
その瞬間、俺は確かに二重の存在を受け入れていた。
ルシアンとしての冷徹さと、蓮としての人間らしい温もり。
両方を抱えたまま、彼女と踊ることを選んだ。

夜風を曲に、木の下で舞う。
彼女の瞳が涙で歪むのを見て、胸が締め付けられる。
――これは別れの舞。
この世界に囚われ続けた俺たちが、ようやく出口へと辿り着くための儀式。
 

「ヴァイオレット……いや……君と踊るこの最後のダンスを、俺は決して忘れない。
この世界に別れを告げても、絆は消えない。
それが俺たちの物語だ」
 

言葉は夜風に溶け、月明かりに抱かれる。
ゲームには存在しない、俺たちだけの隠れエンディング。
執着と恋心を秘めた最後の舞踏。

そして俺は、確かに受け止めた。
――このダンスこそが、世界に別れを告げる選択。
俺たちが物語を完結させるための、最後の証だった。
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