悪役令嬢に転生したけど推しが中の人だった件について
第17章 ルシアンとヴァイオレット
氷の公爵の声は低く、執着の熱を帯びていた。
「私が固執するのは、彼女がただ美しいからではない。
彼女の中にある矛盾と秘密が、私を狂わせる。
氷の薔薇の棘に傷つけられても、なお触れたいと思ってしまう……」
月明かりが窓を照らし、彼の独白は静かに夜へと溶けていった。
……違和感がある。
氷の公爵ルシアンとして振る舞うたびに、胸の奥で神楽坂蓮としての自分が囁いている。
「これは本当に俺の世界なのか?」
ヴァイオレット、いや彼女もまた、ただのキャラクターではない。
演じられた存在のはずなのに、彼女の笑みや涙はあまりにも人間的で、錯覚では済まされないほどのリアリティを帯びている。
レオン、ノエル、ユリウス……彼らも同じだ。
同僚声優、先輩声優として共に舞台を作り上げてきたはずの仲間が、今は自らの意思で動いている。
台本を超え、キャラクターが人間のように息づいている。
「俺はルシアンであり、神楽坂蓮でもある。
この二重性が、俺を狂わせる」
葛藤が胸を締め付ける。
もしこの世界がゲームであるならば、物語は必ず完結しなければならない。
だが、完結を迎えなければ……俺は元の世界に戻れないのではないか。
「ヴァイオレット……君も気づいているのか?」
彼女の氷の微笑の奥に、別の存在――“誰か”が潜んでいる。
それは役を超えた魂のように、俺を惹きつけてやまない。
俺は自問する。
「なぜ、俺はヴァイオレットに固執するのか?」
それは執着ではなく、使命なのかもしれない。
彼女と共に物語を完結させること――それが、この世界から解放される唯一の道。
やがて、結論に至る。
「俺はヴァイオレットを手放さない。
彼女と共に、この物語を終わらせる。
氷の薔薇の物語を完結させなければ、俺たちは帰れない。
だからこそ、俺は彼女に固執する」