第4章 残る想いと結ぶ誓い
それまでは禪院家の女として、大人しゅうしとき。と続けて言った。
仁美は最初何を言われているのか分からなかった。
でも段々と直哉の言った意味を理解すると、眉間に皺を寄せた。
次の瞬間、仁美の手が湯をすくった。
ばしゃっ――。
朝焼け色の湯が直哉の顔に飛んだ。
直哉は思わず目を見開いた。
「なっ……何すんねん、お前ッ!」
怒りと驚きが混ざった声で、湯が滴る顔には、普段の余裕なんてひとつもなかった。
だが仁美は振り返り、湯の上を滑るように直哉へ向き直った。
そして両手で、直哉の頬を掴んだ。
近付いた仁美の顔が怒っていて、真剣な顔だったから、直哉は一瞬息を呑んだ。
「……今日、うちは一生を直哉に添い遂げる気で嫁いできたんよ。馬鹿なこと言わんといて。」
そう言って直哉の顔を掴む手は震えていた。
だけど直哉に訴える表情は、少しの揺らぎも無かった。
直哉は一瞬驚いた顔をするが、すぐにいつもの目でジトッと仁美を見返した。