第3章 愛と義務
京都の夜は、艶やかに息づいていた。
花街の灯りは風に揺れ、三味線の音が遠くから流れ込む。
その奥でひっそりと構える高級座敷には、すでに数多くの“大物”が集まっていた。
仁美が座敷入ると空気が、ほんの少し変わった。
財閥筋の重鎮たちが背筋を伸ばし、ゆっくりと、しかし確実に視線を向けてくる。
「お嬢さん、ようお越しになられましたな。」
「いやいや、禪院家さんに呼ばれる日が来るとは……これは滅多にない席ですわ。」
彼らの態度は、“禪院家だから”ではなく“仁美がいるから” だった。
神戸の巨大財閥の娘。
呪術界への強いコネ。
そして今回の会合を取りまとめた中心人物。
その価値を、誰もが理解していた。
三味線の音に合わせて舞妓たちが舞い、芸妓たちは優雅な所作で酒を注ぎ、落ち着いた笑みと鋭い気遣いで座敷をまとめている。
舞、笑い声、香、扇――華やぎが一つの“世界”をつくっていた。
その中心――禪院直哉の隣に、仁美は静かに座っていた。