第2章 奪われた初恋と手に入れた女
神戸の屋敷とは違う、禪院家特有の重たい空気が漂う広間。
畳の匂いすら鋭い。
柱の木目まで威圧感がある。
仁美 は膝を揃え、背筋を伸ばした。
悟も隣に正座しているが、その雰囲気を気にする様子はまったくなく、むしろ少し眉間に皺を寄せていた。
悟はこの場に同席すると聞かなかった。
その頃には仁美は悟が自分をどう思っていたのか知っていた。
だから仁美も、悟の同席を断らなかった。
広間の奥から足音が響き、禪院直哉が現れた。
少年でも大人でもない、18歳前後の絶妙な年齢。
生意気な笑みが粘りつくように軽い。
だがその奥には、計算された鋭さが潜んでいた。
その眼光が仁美を捉えた時、仁美の体は一瞬震えた。
「……久しぶりやな、仁美。」
仁美を見る視線は、“人”ではなく“価値のある道具”を見るようだった。
悟の肩がわずかに動いて不快を隠す気がないことが、直哉にはすぐに分かった。