第9章 揺らぐ灯と交わらぬ影
「…はぁ…。」
聞いたことも無いような気のない返事が白椿から出る。
「相伝持ちの子ぉ産まれて、俺の次期当主が固まったら、どこ行ってもええ言うとるのに、なんでそれまで大人しゅう出来へんねん。あの嫁。」
「…………。」
…… そらぁ、裸足で逃げはりますわ。
出そうになった言葉はちゃんと喉の奥に押し込めた。
「言うときますけど、直哉様が若い芸妓に乗り換えてる間に、うちの一番のお客さんは、もうとっくに別の方に替わってますえ。」
「は?そうなん?」
全く気にも止めてくれなかった男を、白椿はチラッと見た。
「せやけど、餞別くらいは差し上げてもよろしおすえ。どうせ意地が邪魔して奥様のお居場所も探せずにおるんやろ。」
図星を突かれた白椿の言葉に、直哉は一瞬息を飲む。
「……なんでお前が、仁美の居場所知っとんねん。」
白椿はニッコリ笑って直哉を一瞥する。
「そんなこと、うちの一番の旦那様からよう聞いておりますえ。」
白椿の言葉に直哉は顔を顰めた。
仁美のことを知っている白椿の一番の旦那様。
嫌な予感しかしない。