第5章 試合の後で
猫は初めての空間に怯え、低く唸りながら威嚇の声を上げた。
それでも寝床に足を踏み入れると、警戒しながらもその場で丸くなり、やがて静かに身を沈めた。
英美子は猫を刺激しないよう、そっと距離をとって後片付けを始めた。
部屋の空気はまだ少し緊張していたが、ケージの中で眠る小さな命の温もりが、彼女の胸に静かな安心を灯していた。
英美子にとって、彼らとの出会いは「非日常」だった。
ならば、別れは「日常」への回帰なのだろう。
非日常から脱却し、穏やかな日常へと戻った。
彼女は、恵美から迎えた猫・サクラと少しずつ距離を縮めながら、静かな毎日を過ごしていた。
以前と違うことがあるとすれば、あの五人——潔、蜂楽、千切、玲王、凪——と、時折LINEでやり取りをするようになったことくらいだった。
それも、たわいない会話ばかり。天気の話、食べたもの、ちょっとした近況。
『友人』としての、軽やかなやり取り。
少なくとも、英美子はそう思っていた。