第1章 出会いは病院で
そう言い残すと、救急車のドアが閉まり、サイレンとともに近くの総合病院へと走り出した。
総合病院・緊急搬送者処置室
「ん……んんッ……」
軽い呻き声とともに、ベッドに横たわる女性の長いまつ毛が微かに震えた。やがて彼女の体がわずかに揺れ、ゆるやかに瞳が開いていく。
目覚めと同時に、軽いめまいと鈍い頭痛が彼女を襲った。視界に映るのは、見知らぬ天井。
「あれ……わたし……」
(ここは……どこ?)
言葉にならない疑問が喉の奥で溶けた、その瞬間——
「気がついたんですね! 大丈夫ですか?」
ベッド脇から声がかかる。見知らぬ男性が安堵の表情を浮かべながら、彼女に優しく問いかけた。
ベッドの柵越しに身を乗り出すようにして、鮮やかな長髪が印象的な青年が彼女を覗き込む。その瞳には、心配と安堵が入り混じっていた。
(この人……さっき、公園で……)
彼女の頭の中で、鈍く霞んでいた記憶が少しずつ輪郭を取り戻していく。
「俺、先生呼んできますね!」
彼が姿を消すと、彼女はまだ鈍く霞む思考を巡らせながら、ようやく自分が公園の入口で倒れたことを思い出した。
——あのとき、確かに。
「桜沢さん」
不意に名前を呼ばれ、彼女は反射的に、
「……はい」
と、か細く返事をした。
カーテンの向こうから、ひとりの医師が看護師と、先ほどの赤毛の青年を伴って入ってくる。
「過労と軽い貧血ですね。それから、数か所に打撲の痕があります。倒れたときに打ったのでしょう。骨折は見られませんので、ご安心ください。バイタルも安定しています。点滴が終わったら、打撲用の湿布と貧血の薬を処方しておきます。体調が落ち着いたら、受付で薬を受け取って手続きを済ませてから、お帰りいただけますよ」
そうひと通り説明を終えると、医師は看護師と青年を残し、カーテンの向こうへと姿を消した。
「ご無事で安心しました。仲間に連絡を取ってきますので、僕も一度席を外しますね」
青年もそう言い残し、医師の後を追ってカーテンの外へ出ていった。
残された看護師が点滴の滴下速度を確認しながら、優しく声をかける。
「桜沢さん、点滴が終わったら教えてくださいね。無理なさらず、ゆっくり休んでください」
そう言いながら、なぜかカーテンの向こうと彼女の顔を交互に見つめ、意味ありげな視線を向けてくる。