第1章 出会いは病院で
ぽつりと呟いた千切の声に、蜂楽が身を乗り出す。
「えっ、マジで!?なんて?」
「“お茶は遠慮します”って。体調がまだ万全じゃないからって」
「うわ〜、それってやんわり拒否ってやつじゃん!」
蜂楽が大げさに肩を落とすと、潔も苦笑しながら頷いた。
「でも、ちゃんとお礼の気持ちは伝わってるみたいだし、連絡くれただけでもすごいよな」
「……うん、そうだな」
千切はそう言いながら、スマホを親指で軽く弾き、返信画面を開いた。少しだけ考え込んだあと、静かに文字を打ち始める。
ご丁寧な返信ありがとうございます。
体調がまだ万全でないとのこと、どうかご無理なさらず、ゆっくり休んでください。
タクシー代の件ですが、本当にお気になさらないでください。
それでもどうしても、ということでしたら、振込先をお送りします。
でも、僕としては、また元気なお姿を見られることの方が、ずっと嬉しいです。
「……よし」
送信ボタンを押した千切の目は、どこか満足げだった。
「うわー、千切ん、やっぱり優男〜。その返信、俺も使おうかな。テンプレにして!」
蜂楽が冗談めかして言うと、潔が苦笑しながらツッコむ。
「いや、お前が使ったら軽く聞こえるからやめとけ」
三人のやり取りが続く中、千切のスマホは静かにテーブルの上に置かれた。画面の向こうにいる英美子のことを思いながら、彼はふと、窓の外に目を向けた。
夕暮れの光が差し込む食堂の片隅で、何かが少しずつ動き始めていた。
スマホの通知が鳴った瞬間、千切は反射的に画面を開いた。
そこには、英美子からの新しいメッセージが届いていた。
『ご返信ありがとうございます。
皆さんのお気遣いには本当に感謝しています。
それでも、やはりタクシー代の件は私の中でけじめとしてお支払いしたいと思っています。
お手数ですが、振込先を教えていただけますか?
よろしくお願いいたします』
千切はその文面を読みながら、静かに息を吐いた。
――やっぱり、これ以上関係を続ける気は彼女にはないのか?
彼女の言葉には、距離を保とうとする慎重さと、それでも誠意を尽くそうとする芯の強さが滲んでいた。
千切は小さくため息をついた。
「来た?」
蜂楽が隣で身を乗り出す。
「桜沢さんから?」
潔もそっと声をかける。
千切は頷きながら、スマホを握り直した。
