第1章 出会いは病院で
「さくら公園入口まで」
と運転手に告げた。
『さくら公園』――それは英美子が倒れ、四人が出会ったあの場所だった。
行き先を聞いた千切が驚いて声を上げる。
「そんな!家の前まで送りますよ!」
すると英美子は微笑みながら、
「あの公園、私の家のすぐ近くなんです」
と答えた。
その笑顔には、「家は知られたくない」という女性としての自然な防衛反応と、やはりどこか一線を引くような気配があった。
千切はその距離感を感じ取りながらも、蜂楽の見せた行動に心がざわつき、理由の分からない焦燥が胸を支配する。
それを英美子に悟られまいと、千切は黙って視線を前に向けた。
さまざまな思いが交錯する四人を乗せた二台のタクシーは、静かに『さくら公園』へと走り出していった。
『さくら公園』の入口に、二台のタクシーが静かに停まった。
千切の手を借りて、英美子はゆっくりと車を降りる。空は夕焼けに染まり、公園には犬の散歩をする人がちらほらと歩いているだけだった。
蜂楽と潔も、彼女の荷物を持ってタクシーを降りてくる。
英美子は千切から松葉杖を受け取り、右脇にしっかりと抱え、潔からカートを受け取ると、
「それでは、本当にご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした」
と深く頭を下げた。
「やっぱり荷物、重いですし……ご自宅までお送りしますよ!」
と潔が申し出るが、英美子は丁寧に断りの言葉を返す。そして三人に背を向け、去り際に、
「ありがとうございました」
と、まるで別れの言葉のような響きを持たせて告げると、歩き出した。
その背中を見つめていた千切が、何かを思い立ったように声を上げる。
「桜沢さん!待ってください!」
英美子が振り返ると、千切はタクシーの運転手と何やらやり取りをしていた。手には紙のようなものを持っている。
それを見た蜂楽が、千切の手から紙をひったくるように奪い、運転手と再び何かを話し始める。潔もそれに続いて加わった。
英美子は小首を傾げながら、その様子を静かに見守っていた。
やがて三人が息を切らせながら駆け寄ってくる。
そのうちの千切が、英美子に一枚の紙切れを差し出した。そこには、LINEのアドレスのような連絡先が書かれていた。
「俺の連絡先です。何か困ったことがあったら、いつでも連絡してください。すぐ駆けつけますから」