第10章 家族になる
「…え?まさか…ふたり?」
英美子は、照れくさそうに頷いた。
「うん。双子みたい。」
千切は目を見開いて、しばらく言葉が出なかった。
その沈黙を破ったのは、琳の弾けるような声だった。
「まま、あかちゃんできたの?ふたちゅ?!」
「そうだよ、琳。お姉ちゃんになるんだよ。」
「やったー!あかちゃん、あかちゃん!おねーちゃんになるの!」
琳はくるくると回って喜び、サクラはその様子を見て小さく鳴いた。
千切はようやく我に返り、英美子の手を取って、真剣な眼差しで言った。
「…すごいな。俺たち、家族がもっと増えるんだ。
英美子、ありがとう。俺、もっと頑張るよ。琳にも、ふたりにも、そして君にも。」
英美子は、千切の手を握り返しながら微笑んだ。
「私も、頑張る。琳がいて、サクラがいて、そしてあなたがいるから、きっと大丈夫。」
その夜、ふたりは琳を真ん中にしてベッドに並び、サクラが足元で丸くなって眠った。
英美子のお腹には、ふたつの命が静かに息づいていた。
家族の音が、優しく重なっていく。
それは、何気ないけれど確かな幸せの音だった。
月日は足早に過ぎ、琳が「おねえちゃん」と呼ばれるようになった頃。
英美子は再び出産の時を迎えていた。
分娩台に乗れない彼女のために、病院は特別な出産室を用意してくれた。
その部屋の外では、いつもの仲間たちが静かに待っていた。
恵美は日本から、潔はドイツから、蜂楽はスペインから。
玲王と凪はイギリスのチームから駆けつけ、サクラは千切の腕の中で落ち着かない様子だった。
しかし、今回の出産は予想以上に難航した。
陣痛が進まず、医師の判断で帝王切開に切り替えられた。
千切は手術室の前で、祈るように両手を組んでいた。
そして——
最初に生まれたのは男の子。
「蓮」と名付けられた。
泥の中でも美しく咲く蓮の花のように、困難を越えて生まれた命。
次に生まれたのは女の子。
「翠」と名付けられた。
澄んだ緑の輝きのように、静かで強く、優しい命。
英美子は出血がひどく、輸血を受けて意識が朦朧としていた。
退院は長引き、産後の肥立ちも思わしくなかった。
「誰か、英美子を支えてくれる人が必要だ。」
玲王の一言で、千切は頷いた。
そして数日後、派遣されたのは黒澤だった。