第10章 家族になる
帰りの飛行機の中、千切は英美子の肩に頭を預けながら、そっと囁いた。
「次は、家族3人で来よう。サクラも連れて。」
「うん。…その頃には、もうひとり増えてるかもね。」
ふたりは顔を見合わせて笑った。
ベネチアの仮面は外れても、心に刻まれた記憶は、これからの人生を照らし続ける。
イギリスの空は、朝から柔らかな曇り空だった。
病院の窓から見える街並みは静かで、けれど英美子の胸の中は、嵐のようにざわめいていた。
臨月を迎えた彼女は、ついに出産の日を迎えていた。
千切は、手術着に着替えながら、英美子の手を握っていた。
「大丈夫。俺、ずっとここにいるから。」
英美子は、痛みと不安に揺れながらも、彼の言葉に小さく頷いた。
病院の待合室には、遠くから駆けつけた仲間たちが集まっていた。
日本から来た恵美は、英美子の母のような表情で祈るように手を組んでいた。
ドイツから潔が、スペインから蜂楽が、そしてイギリスのチームメイトである玲王と凪も、静かにその時を待っていた。