第10章 家族になる
祝祭の夜、静かな告白
仮面まつりの夜。
広場では音楽が鳴り、仮面をつけた人々が踊っていた。
千切と英美子も、仮面をつけて人混みに紛れ、手を取り合って歩いた。
「なんか、別人になったみたい。」
「でも、俺はすぐ英美子ってわかるよ。」
「なんで?」
「歩き方。あと、手の温度。」
その言葉に、英美子は少しだけ黙って、仮面の奥から彼を見つめた。
「…ねえ、豹馬。実は、話したいことがあるの。」
「うん?」
「…妊娠してるみたい。まだ確定じゃないけど、検査薬で…」
千切は、言葉を失ったまま彼女を見つめた。
広場の喧騒が遠ざかり、ふたりの間に静けさが満ちる。
「…本当に?」
「うん。怖くて、でも…嬉しくて。」
千切は、仮面を外して彼女の手を握った。
「英美子…ありがとう。俺、ちゃんと父親になる。
サクラもいるし、家族が増えるって、すごく幸せだ。」
英美子は、仮面を外して微笑んだ。
その笑顔は、ベネチアの灯りよりも柔らかく、確かなものだった。