第1章 熱に浮かされて
(生きている隊士がいるな。)
少し離れた岩陰に女隊士がいた。酷い怪我をしているがまだ息はあるようだった。額から血を流し、顔はよく見えない。
「……!」
隊士は鳶色の御髪に大きな深緑色の帯飾りをしていた。
(…蔦子姉さん…!!)
咄嗟にその女隊士を抱き締めた。
急に圧迫感を感じたその女は義勇の顔を少し見上げたような仕草をし、ゆっくりと口を開いた。
「……だ…れ…………?」
掠れた声で女はつぶやいた。消えそうな弱い声で、当然聞きなれた姉の声ではない。
(姉さん……なわけがない。判断が鈍ってはいけない。)
「すまなかった。水柱の冨岡義勇だ。鬼の居場所を知っているか。」
「…………。」
女は少し微笑んだ。そして何も言わなかった。
そのまま意識を失ったようだった。
大した階級ではないのかもしれない。
もし鬼に関係のない人生だったらこの腕はか弱いままで、刀など持ち上げられなくて良かったに違いなかった。
(もうこの隊士は回復しないかもしれない。来世は幸せになってくれ…)
義勇はそっとその女隊士を岩に寄りかからせ、着崩れていた羽織をかけ直した。
(仕方がない。また探そう。)
そしてまた暗い夜の闇に飛び出して行った。