第23章 芦原の確信
見損じによって院生手合いを負けた明日美は、検討後にも心にモヤモヤが残っている。院生があまり来ない場所で、1人になって気分を紛らわそうと、階段を降りてフロアを移動した。自販機でお気に入りのジュースを買い、冷えた缶を手にしたまま、ベンチに座ってため息をつく。途中までいい感じだったのに、やっちゃったな…集中できてなかった…と俯く。
すぐ近くの談話室から話し声が漏れ聞こえることに気づく。盗み聞くつもりはないが、他に音がないため、若い男性の声が耳に入ってくる。
「ゴッホ展にあの子と行っただろ?」
明日美はハッとして缶を握りしめる。ゴッホ展? あの子って…もしかして星歌のこと?誰が話してるの?と、心がざわつく。
「高校生を弄ぶなよ…」
え?…高校生って…。やっぱり星歌のことだよね…?
「あのな、緒方。お前は若手棋士のトップだぞ?自分の立場をわきまえろよ。高校生はやめとけ」
明日美は、え…?緒方先生?と、静かに驚き、身を縮こまらせる。星歌とゴッホ展にいったのって緒方先生なの…?本当に?半信半疑でいると、先ほどとは異なる低い声が響く。
「前にも言ったが、別に弄んでなんかいない」
確かにこの声、緒方先生だ…。明日美は息を潜める。緒方先生と話してるのは誰?白川先生かな…?と、思わず耳を澄ます。
「お前…そんなにあの子が好きなのか?」
その問いに緒方は答えず、沈黙が流れる。これって、緒方先生は星歌のこと…好きってこと!?明日美の胸はドキドキが止まらない。星歌は「ただの知り合い」って言ってたけど、違うよね?カラオケボックスでのゴッホ展の話を思いだして、真相を知った興奮と驚きで頭がいっぱいになる。そのとき、談話室へと誰かが近づく足音が聞こえてくる。ここにいるのがバレたらまずい…と、明日美はジュースを手に、そっとベンチを離れた。