第22章 急接近のゴッホ展
絵の話が一段落すると星歌が、今夜は伯父の一柳棋聖の家に行くのだと言ったため、緒方が車で送り届けることになった。
「一柳先生の家はどこだ?駅を目標に行けばいいか?」
車に乗り込んだ緒方が聞く。
「えっと、駅の右の入り口を出て左に曲がって、しばらく歩いてコンビニを左に行くと家がいろいろあって、その辺をなんとなく歩いたところです」
星歌の大雑把すぎる説明に思わず緒方は苦笑い。…この子はひどい方向音痴だったな…と思いだす。
「…住所わかるか?ナビに入れる」
「はい!わかります!」
星歌はゴッホ展のリーフレットと母のメモを膝に開きながら住所を答えた。緒方がナビを設定する間も、星歌は熱心にリーフレットとメモを見比べている。車が動きだしても夢中で読んでいるので、緒方は心配になる。
「大丈夫か?下を見ていると酔うんじゃないか?」
「そうですね、酔ったら大変!大丈夫、まだ平気です!」
「無理するなよ、あとでゆっくり読め、年末は少し休めるんだろ?」
星歌は慌てたように顔を上げ、前を見た。そのまま固まったように動かずにいる様子がおもしろく、緒方はこっそりと笑みをこぼした。
20分ほどして、車は一柳家の近くに停まる。冬の夕暮れ、街灯がスポットライトのように車を照らしだしている。
「今年、9月からでしたけど…お世話になりました」
「こちらこそ、キミと出かけられて楽しかった」
緒方の言葉に、星歌の目が一瞬揺れる。
「緒方さん…」
2人の視線は絡み合う。たった数秒のことだったが、緒方はその時間をとても愛おしく思った。
「…じゃあ、また来年。よいお年を」
星歌は名残惜しそうに車を降りる。にこやかに手を振る星歌に、緒方も軽く手を挙げて答える。来年また、こんな時間があればいいな…と思いながら、緒方は静かに車を発進させた。