第22章 急接近のゴッホ展
星歌が4つ折りの紙を丁寧に広げると、「ひまわり」や「星月夜」の小さなスケッチと、星歌の母の几帳面な文字が並ぶ。
緒方は紙を覗き込み、簡単にと言っていたが本格的だな…。さすがメトロポリタンのキュレーターだ、と感心する。
「とりあえず、行ってみますか?」
顔を上げた星歌と思っていたより近くで目が合い、緒方の心臓は跳ね、夢での口づけの感触が蘇る。
「失礼」
緒方は慌てて1歩下がり、落ち着け、何考えているんだ…と、動揺を鎮めようとする。
「…大丈夫です…」
星歌は静かに言うが、明らかに顔が赤い。
少しの気まずさを持ちつつ、2人は展示会場へと向かう。ゴッホの絵を前にすると星歌に明るさが戻り、鮮やかな色合いや渦巻くような表現に目を輝かせる。
「色使いもタッチもいいですね!」
「ああ、引き込まれるようだな」
芸術は詳しくないながらも星歌につられ、緒方も素直に感想を口にする。この子と一緒だと絵もいいものだ…とあらためて思う。星歌が母のメモを手に、ちょっとした解説のようなことを話す。それを聞く緒方の目は優しく、この子と過ごす時間は穏やかだな…と、心があたたまっている。
美術館から移動して2人でお茶をしながら、ゴッホ展の話で再び盛り上がる。
「星月夜はニューヨークで見たことがあったんですけど、久しぶりに見たら、こんなに小さかったかな?って思いました。私が大きくなったからかもしれませんけど」
「確かに、そうかもしれないな」
「ゴッホの浮世絵の模写が見られてよかったです、ずっと見たかったんです」
「浮世絵がゴッホに影響を与えていると、前にキミが教えてくれた通りだった」
この子とこうやって話すの、やはりいいものだ。オレにとって特別な時間だ…と、緒方はささやかな幸せを実感していた。