第22章 急接近のゴッホ展
1月、棋院近くのカラオケボックスでは、新年会と称して明日美が歌いまくっている。星歌はもっぱら聞き役だが、楽しそうな笑顔を見せている。
得意な曲をひと通り歌い終わった明日美が、意味ありげにニヤリと笑う。
「ねえ、今年こそ、星歌の恋バナ聞かせてもらうよ?絶対、好きな人いるでしょ?」
「え…。本当に、好きな人なんていないよ…」
星歌は少し焦りながら否定しつつも、頬がほのかに赤くなる。緒方さんのこと、言えるはずがない…。ううん、緒方さんは好きな人じゃないよね…。好きになっちゃダメだよ…。そうやって自身の気持ちを否定しつつも、ゴッホ展での「好きな人?」や別れ際の「キミと出かけられて楽しかった」の言葉が頭をよぎり、切なさが募る。
「そうなの〜?怪しいんだけど!ま、いいか。じゃあ、年末って何してた?」
話題は年末の出来事に変わって星歌は安心するが、結局はゴッホ展のことを話すことになる。
「ゴッホ展、本当に良かったよ!」
「もしかして、デート?」
「ち、違うよ! ただの知り合いと行っただけ!」
星歌の慌てた様子と頬の赤みから明日美は察する。…絶対デートだよね?美術館に一緒に行くって、年上かな?もしかしてカフェのお客さん?まさか、芦原さん…は、ないない。でも、相手が棋士だったら言いにくいかもしれないから、あんまり追求しないほうがいいかもね…。
「あやしいなぁ?」
明日美は軽くからかうだけにとどめる。
「美術館とか、私もたまに行ってみようかな?気分転換にもちょうどいいよね。毎日毎日、囲碁ばっかりだと身が持たないもん」
明日美が笑顔で言い、星歌は上手くごまかせた…と安心する。でも、ゴッホ展は緒方さんと一緒だったから特別だったのかもしれない…と、心の奥底でそっと思っていた。