第14章 次回の約束
日曜日の昼、12時55分。秋の日差しが街を照らし、銀杏並木の葉が風に揺れる。緒方の真っ赤なスポーツカーが、星歌の住むマンション前に静かに停まる。星歌はハイネックプルオーバーにカーディガン、膝丈のスカートという装いでエントランスから現れる。今日も似合っているな…と、緒方の胸がドキリと高鳴る。
「緒方さん、こんにちは。誘ってくれて本当に嬉しいです! 楽しみ!」
助手席に乗り込んだ星歌が言う。嬉しいのは印象派展だからか?それとも…相手がオレだからか?と、緒方の頭に一瞬、疑問が浮かぶ。オレだから…であったらいいのに、そんな気持ちを消すことができず、何を自惚れているんだろうな…と内心で自嘲する。
横目で星歌をチラリと見ると、カフェのときとは少し違った清楚な雰囲気で、思わず鼓動が速まる。せっかくだから服が似合っていると伝えたいとも思うが、気恥ずかしくて口にすることができない。こんなときアイツなら素直に褒めるんだろうな…と緒方は芦原を少し羨ましく思っていた。
「緒方さん、私、チケット代払います!」
美術館の入り口で、星歌がトートバッグから財布をサッと取り出す。ずいぶん素早いな…と、緒方は星歌の動きに苦笑いし、先週の浮世絵展での頑固さを思いだす。
「分かった、今回も受け取るよ」
クールに頷き、星歌からチケット代を受け取る。この子のこういうところ、嫌いじゃないな…と星歌の自立心を微笑ましく思う。
2人は入館し、印象派展の展示室へ向かう。ゴッホやモネが並ぶ中、星歌の目が輝くのを見て、緒方は自身の心が満たされていると感じる。特にゴッホの絵は熱心に見ていて、緒方の知的好奇心も刺激を受けた。
この子とこんなふうに美術館に来ると、オレ自身にとっても得るものがある気がするな。オレより10も年下なのに、そんなことを少しも感じさせないんだよな…。緒方はそう思い始めていた。