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白と黒のハーモニー【ヒカルの碁・緒方精次】

第13章 2人での美術館


 星歌の住むマンションの前に、緒方の車が静かに停まる。助手席の星歌はトートバッグを手に持ち、笑顔を見せる。
「緒方さん、今日、楽しかったです! ありがとうございました!」
「オレも楽しかった。美術館なんて久しぶりだったが、案外いいものだな」
 この笑顔を見せられると、出かけた甲斐があるな…と、緒方も思わず笑みをこぼす。
「緒方さんはインスタントコーヒーって飲みますか?」
「家じゃインスタントばかりだな。ラクだからな」
 緒方が質問に答えると、星歌の目の輝きが増したようだった。
「よかった! じゃあ、これ飲んでください!」
 星歌はトートバッグから小さな袋を取りだす。そのクリアな袋の中にはインスタントコーヒーのスティックとクッキーが入っているのが見える。
「今日のお礼です」
 この子、わざわざこんなことを…と、緒方の胸にあたたかな感情が広がっていく。気を使うことなんてないと、受け取りを拒否することもできるが、チケット代を払ったときの星歌の頑なな態度を思いだして、考えをあらためる。
「気を使わせたな。今回はもらうが、次からはこういうの、なしだぞ?」
 緒方は軽く笑って言う。
「お礼したかったんです。でも分かりました、次はなしで!」
 星歌も笑顔で答える。
「気をつけて帰ってくださいね!」
 車から降りた星歌は、軽く手を降りながら言う。街灯に照らされた星歌の無垢な笑顔を見て緒方は、かすかな愛しさのような感情が芽生えていることに気づく。ただのバイトの子、しかも高校生だぞ…と自制しつつも「緒方さん」と呼ばれたことが頭をよぎり、優越感にひたる。車を走らせながら、囲碁以外でこんな気分は久しぶりだと、心は満たされていく。先ほど星歌を車から降ろしたばかりなのに、次はどこへ連れていくかと考えはじめていた。
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