第13章 2人での美術館
デスクに置かれた小さなランプが柔らかな光を放ち、窓の外では銀杏並木が夜風に揺れる。パジャマに着替えた星歌はベッドに腰掛け、トートバッグから取り出した浮世絵展のリーフレットを手に、今日、楽しかったな…と一日を振り返っている。浮世絵、すごかった。北斎の波、ダイナミックだったな…と、展示室での興奮が蘇る。
緒方先生…緒方さん、今日も優しかったし、カッコよかった…と、緒方のクールな笑顔が頭をよぎり、胸がドキリと高鳴る。車に乗せてもらって2人でお出かけなんてデートみたいだったな…と、頬が熱くなる。でも、緒方さん、私が方向音痴で乗り換えも上手くできないから、ただ優しくしてくれただけだよね…と思いなおす。それに私は、恋愛するために帰国したんじゃないんだから…と自分を戒める。でも、また緒方さんとどこか行きたいな…。さまざまな思いを交錯させながらベッドに横になる。
同じ頃、緒方の自宅では薄暗いリビングで水槽が青く光り、熱帯魚が静かに泳ぐ。緒方は簡単な夕食を済ませ、コーヒーでも飲むかと、キッチンへ向かう。テーブルの上には、星歌からもらったインスタントコーヒーのスティックとクッキーの入った袋がある。大したものじゃないのに、こんなに嬉しくなる贈りものってあるんだなと、星歌のピュアな笑顔や「緒方さん」と呼んだ声が頭に浮かぶ。そして、自分のためにラッピングをしてくれたのかと思うと、特別な感情が胸に湧いてくる。ケトルでお湯を沸かしながら、星歌のチケット代を払おうとした頑固さやゴッホと浮世絵の知識を思いだす。車で行くか?と思わず発したことがきっかけの2人での外出だったが、思っていた以上に楽しく充実した時間だった。ケトルから立ち上る湯気をぼんやり見つめ、次はどこに連れてくかなと、星歌の笑顔ばかりが頭を占領しはじめていた。