第13章 2人での美術館
夕暮れが窓の外に広がり、静かにジャズが流れるカフェで緒方と星歌は窓際の小さなテーブル席に座る。
「そういえば、浮世絵ってゴッホに影響与えてるんですよね。ゴッホはニューヨークで見たことがあるんです。ゴッホの線や色の使い方は確かに、浮世絵のシンプルで大胆な感じに似てるかもって思いました。今日見た北斎の波の構図とか、ゴッホが参考にしたって考えると、なんかおもしろいですよね!」
「ゴッホと浮世絵か、不思議なつながりだな」
星歌の話に、緒方の知的好奇心が刺激される。
「ニューヨークはメトロポリタン美術館が有名だが、行ったことはあるのか?」
「はい、母はメトロポリタンでキュレーターしてます」
何気なく質問しただけなのに思いもよらぬ答えが返ってきて、緒方は少し驚く。
「メトロポリタンのキュレーター、それはすごいな。キミの芸術に対しての知識や情熱も、本場のキュレーター仕込みというわけか」
「小さい頃はよく連れていってもらいました。広いから飽きることがないんです。でも、広すぎて迷子にもなりそうでした…」
「キミは方向音痴だったな」
緒方は思わず笑いながら言った。
星歌はフォークでケーキを口に運び、話題を変えるように言う。
「日本のケーキ、やっぱりおいしいですよね! この前、友達とケーキバイキング行ったら、食べすぎちゃって…お腹パンパンでした」
星歌はクスクスと笑う。それを見て緒方は、こんな子どもっぽい一面もあるのかと微笑ましく思う。さっきのゴッホの話とのギャップがおもしろいな…。星歌の知的な一面と無垢な笑顔の両方に心が引き込まれている。
「ケーキバイキングか。ケーキなんてそんなに食えるか?」
「食べ始める前は、全種類制覇できると思ってたんですけど、全然ダメでした。食べすぎて気持ち悪くなっちゃって、もうやめとこうって思いました」
「いい勉強になったな」
「はい、本当に」
高校生と2人で出かけるなんて…と思ったが、彼女との会話は年齢差なんて気にならない。囲碁以外にもこんなに楽しい時間があるんだな…。緒方の胸中にそんな思いが広がっていた。