第13章 2人での美術館
浮世絵展を巡り終えた緒方と星歌は駐車場へ向かう。銀杏並木が夕暮れに染まり、星歌のネイビーのワンピースとグレーのカーディガンがそよ風に軽く揺れる。清楚な雰囲気の私服は彼女に似合っているなと、緒方の胸が再びドキリと高鳴る。
「緒方さん、今日、楽しかったです。浮世絵、すごかったですよね!」
星歌は目を輝かせて言う。
こんなに素直に喜んでくれて、連れてきてよかったなと、緒方の心にぬくもりが広がる。「緒方さん」と呼ぶ新鮮な響きに対しての優越感も胸を満たす。
車に乗り込むと星歌がトートバッグから財布を取りだして言う。
「私、チケット代払います!」
「キミは高校生だろ。払わせるわけにいかない」
入館前と同じようなやり取りが交わされる。
「でも、バイトしてるし、ちゃんと払いたいんです!」
星歌は頬を軽く膨らませて食いさがる。
「…そうか、分かった」
緒方は、この子は意外と頑固だな…と思いつつ軽くため息をつき、星歌からチケット代を受け取る。
「どこかでお茶にしよう。そこはオレが払うから」
「え、いいんですか? じゃあ…お茶はごちそうになります」
緒方の提案に星歌は笑顔で賛成する。
自分のチケット代を払うというのは、この子の自立心だろうな、と緒方は考える。素直に奢られていればいいのに…とも思うが、これは彼女の長所だろう。金を出してもらって当然という態度よりは断然マシだしな…。今まで2人で出かけた女の中には、財布を出しもしなかった女も多くいたな…と緒方は思いだしていた。
カフェへ向かい、車が走りだす。
「本当に楽しかったです。誰かと一緒だと、すぐに感想を言えるのがいいですよね」
「じゃあ、また今度、別の美術館にでも行くか」
星歌に返した言葉に緒方は、オレはまた、どうしてこんなことを…と思うが、すぐに、まァ、いいか…と思いなおす。
「本当ですか?嬉しいです!」
明るく弾む星歌の声やピュアな笑顔、それが自分に向けられるだけで、彼女をどこかに連れていく価値はある…緒方はそう考えていた。