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白と黒のハーモニー【ヒカルの碁・緒方精次】

第13章 2人での美術館


 緒方と星歌は並んで浮世絵展を巡る。展示室には葛飾北斎の『神奈川沖浪裏』や歌川広重の『東海道五十三次』など数々の名作が並んでいる。美術館なんて何年ぶりだ?たまにはこうやって芸術に触れるのもいい経験かもな…と緒方は思っている。そして、浮世絵展って人気なんだな…?と、混雑にも少し驚いていた。
「初日は入場制限があったみたいですけど、今日はスムーズに入れてよかったですね」
 星歌の言葉に緒方は、美術館は自分が思っていた以上に多くの人がさまざまなアートを楽しむものなのだと認識して、これじゃオレも芦原と大差ないな…と内心で自嘲している。
「先生、この波の動き!ダイナミックですね!」
「先生、この雨の表現がきれいですね」
「私は北斎の青が好きなんです。先生はどうですか?」
「これ、囲碁の様子が描いてありますよ、先生」
 星歌が小さいながらも弾む声で言う。難しいことはよくわからないが素直に楽しめばいいかと、緒方も数多の浮世絵を鑑賞している。だが、星歌が「先生」と呼ぶたび何人かがチラッとこちらを見ているような気がして、少しの居心地の悪さを感じ始めていた。そして、人の少ない通路で切りだす。
「志水くん、『先生』というのは、やめてくれないか?」
「…棋士の方々は先生と呼ぶように言われているんです」
「ここは棋院じゃないからいいだろ。今、先生と呼ばれるのは落ち着かない」
「え、じゃあ…どう呼べば?」
 星歌がきょとんとして首を傾げる。その無垢な表情に緒方の胸がドキリとする。
「普通に『緒方さん』でいいだろ」
 胸の高鳴りを悟られないように冷静に返す。
「緒方さん…なんか新鮮ですね!緒方さん、こっちの浮世絵も見ましょう!」
 笑顔で次の展示へ進む星歌を見て、緒方の口元に笑みが浮かぶ。「緒方さん」…悪くないな…と、棋院とは異なる呼び方をされることに対して、特別な感情と優越感が湧いてきている。
 2人は浮世絵の解説パネルを読みながら進み、星歌の明るい声と軽い足取りに、緒方の心は穏やかにあたたまっていた。
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