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白と黒のハーモニー【ヒカルの碁・緒方精次】

第13章 2人での美術館


 日曜日の昼、12時55分。星歌がマンションのエントランスに下りると、目の前に停まる真っ赤なスポーツカーの中で、緒方がハンドルを握っていた。星歌はネイビーのワンピースにグレーのカーディガンを身に着けてトートバッグを持ち、軽く手を振る。いつもとは雰囲気が異なる清楚な装いの星歌から笑顔で手を振られ、緒方の胸がドキリと高鳴る。
「先生、今日は楽しみです!でも、彼女さんに怒られませんか?」
助手席に乗り込んだ星歌が遠慮がちに聞く。
 緒方は、思いも寄らない質問に驚く。「彼女」と聞かれて一瞬だけ浮かんだ女性の顔があったが、あいつは彼女ではないよな…と即座に否定する。
「いや、彼女なんかいない」
「それなら、よかったです!」
 安心したような笑顔の星歌を見て、胸にあたたかな感情が広がっていくのを緒方は実感していた。
 車を走らせると緒方は、いつもカフェで雑談はしているが、2人きりだと間が持たないかもな…と、内心で少し身構える。
「浮世絵ってニューヨークでも見たことないんです! 北斎とか広重、楽しみです!先生は誰の浮世絵が好きですか?」
 星歌の弾んだ声に、緒方の緊張も解れていった。
「葛飾北斎、いいな。迫力があるな」
「はい! 特に波の表現がすごいですよね!」
 軽く返した緒方に、目を輝かせて星歌は話す。そんな星歌の様子に、今日は楽しい一日になりそうだと緒方は思っていた。
 美術館に到着し、駐車場に車を停めて2人で並んで歩く。こんなふうに女と歩くなんて久しぶりだな…と、星歌の歩幅に合わせながら緒方は考えている。星歌の足取りは軽く、楽しみにしている様子が動きからも感じられた。
 美術館の入り口で星歌は財布を取り出すが、緒方が2枚の入場券をさっと購入する。
「高校生に払わせるわけないだろ」
「え、でも…!」
 困ったような顔で食いさがる星歌に緒方が手を振り「いいから」と軽く笑う。
「…じゃあ、ありがとうございます」
 星歌は頬を軽く赤らめて引きさがり、2人はそのまま入館して浮世絵展の展示室へと向かった。
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