第12章 秘密の約束
緒方はジャケットの内ポケットに、星歌はエプロンのポケットにススマホをそれぞれ仕舞う。緒方は自分の高揚感を自覚して、顔に出ていないか?と少しの不安を覚えている。そのとき、白川がガラス扉を開けた。
「お!緒方、いつも一人で先に行っちゃうんだよな? オレのこと待っててくれよ」
「待たねえよ。カフェくらい好きなタイミングで行かせろ」
隣に座る白川に本心を悟られないよう、緒方は平静を装っている。
「お前、ずいぶんとゴキゲンじゃないか? 今日、勝ったのか?」
注文後の白川がニヤリと笑いながら言う。緒方は、美術館の約束について勘付かれたか?と少し警戒しつつ答える。
「ああ、勝った」
内心では、白川は対局の話をしているだけだ、変な意味じゃないだろ…と自分に言い聞かせている。
「すごいな!今日の相手は座間先生だろ?絶好調だな!」
「今日の緒方先生はすごく嬉しそうな顔で入ってきましたよ。先生の回りにキラキラが見えるようでした」
白川の称賛に対して、コーヒーを準備する星歌が笑いながら言う。
緒方は表情から感情を読まれていることに対しては不満ながらも、先ほどの約束を話さずにいる星歌の気遣いに安心していた。
「本当、今日の緒方はキラキラしてるぜ!」
白川が豪快に笑う。キラキラ…って、そんな言い方をされるのは子どもみたいじゃないか…と緒方は思い、照れ隠しのようにコーヒーカップを口元へ運ぶ。そしてふと、このキラキラは勝ったから、だよな…?彼女と美術館に行く約束をして、浮かれているのか?との疑問が湧く。ただ美術館に連れて行くだけだ、そんなに大したことじゃないだろ、少し冷静になれ…。緒方の胸中では、自分自身をたしなめる気持ちと週末の予定への期待が渦巻いていた。