第10章 海王高校文化祭
文化祭当日。初秋の陽光が降り注ぎ、銀杏並木の葉がそよ風に揺れている。緒方は助手席にアキラを乗せて車を走らせた。やがて車は海王高校近くの駐車場に到着する。校門のすぐ近くから多くの人で賑わい、生徒たちの呼び込みや笑い声が響く。アキラは年相応に目を輝かせ、模擬店の食べ物や部活動のパフォーマンスを眺める。アキラ、楽しそうだなと、緒方はその姿に安堵する。生まれたときから知る弟弟子への親しみが緒方の胸をあたためていた。
リーフレットを手に、緒方とアキラは星歌のクラスへ向かう。教室に着くと、星歌のクラスは「茶屋」をテーマにした模擬店を開いていた。和風の装飾が施された教室で、抹茶や和菓子を提供する生徒たちが浴衣姿で動き回っている。星歌は濃紺地の大花柄の浴衣に白い半幅帯を締め、ゆるくまとめてアップした黒髪にはつまみ細工を飾っている。いつもとは異なる雰囲気に、緒方の胸が高鳴った。浴衣、似合っているな…と、視線が彼女に吸い寄せられる。
星歌は客に抹茶を運びながら、緒方とアキラに気づく。
「いらっしゃいませ!来てくれたんですね!」
「志水さん、浴衣似合ってますね」
「ありがとうございます、10月だから季節外れですけど、文化祭なのでね。これ、お気に入りの浴衣なんです」
星歌を素直に褒めるアキラを少し羨ましく思いつつ、緒方は星歌の所作が他の生徒よりもスムーズなことに気づく。
「浴衣、着慣れてるのか?着姿がサマになってる」
「ニューヨークにいたとき、イベントでよく和服着てたんです。あっちだと、どんなドレスよりも映えるんです」
緒方の問いに星歌は穏やかに答える。
「抹茶と和菓子をお持ちしますね」
星歌は、2人を席に案内してから教室の隅で抹茶と和菓子を手早く用意した。まるで、いつものカフェのようだなと、その様子をぼんやりと眺めながら緒方は思っていた。