第10章 海王高校文化祭
緒方、芦原、塔矢アキラがカフェのカウンターに座る。だが星歌の姿はない。休みか?と、緒方が店内を見渡す間に芦原がマスターに尋ねると、今日は少し遅くなるとのことだった。
やがてカフェの裏口の扉が開き、星歌が息を切らして現れる。
「マスター、遅れてすみません」
頭を下げる星歌にマスターは黙って頷く。
「いらっしゃいませ」
星歌はカウンターの緒方たちに気づき、はずんだ笑顔で言う。
「…星歌ちゃん、何か用事でもあったの?」
タイミングと言葉を選ぶように芦原が話しかけた。
「文化祭の準備があって、遅くなっちゃいました」
「文化祭か〜楽しそうだね」
「ボク、行ってみたいです」
「アキラがそんなこと言うの珍しいな?」
「高等部の文化祭、おもしろいって学校で聞いたけど、去年は行けなかったから…。せっかくだから3人で行きましょうよ?」
トントン拍子に話が進み、この場の3人で海王高の文化祭に行くことが決まった。緒方は乗り気ではなかったが断る理由もなく、流れで参加が決まってしまったことに内心で少し困惑していた。高校の文化祭、オレが行ってどうするんだ…そう思いつつ肝心な日時について星歌に問いかけた。
「ところで、文化祭はいつなんだ?」
「一般公開は10月の第3日曜日です」
緒方はスケジュール表を見て、予定がないことを確認した。
「あ、その日ダメだ…。親戚の法事入っちゃってる…」
芦原は肩を落とし残念そうに言う。緒方は芦原の顔を見て、少しかわいそうに思いつつ胸にかすかな安堵が広がるのを自覚している。そして同時に弟弟子の恋くらい素直に応援しろよと、内心で自嘲もする。
「じゃあ、アキラ、星歌ちゃんの写真撮ってきてよ! オレも行きたかったな〜」
芦原は軽い口調で言う。
「写真は恥ずかしいですよ…」
苦笑いする星歌を見て緒方の胸中に、芦原が見られない彼女をオレは見られるのだと、優越感のようなものが湧く。いつの間にか、たまにはこんなイベントもいいかもしれないと、文化祭が待ち遠しくなっていた。