第10章 海王高校文化祭
緒方のルーティンでもある塔矢名人宅での研究会が、今夜も行われている。そして、休憩時間になると芦原が緒方に話しかけることもルーティンになりつつある。
「緒方さん、星歌ちゃんって帰国子女なんですって! なんかカッコいいですよね!」
芦原は目を輝かせている。また志水くんのことか…と思いつつタバコに火を着け、緒方は答える
「そうらしいな」
「え、知ってたんですか? なんでオレに教えてくれなかったんですか?」
芦原は軽く笑いながら突っ込む。
「人のプライベートを噂するようなこと、したくねえよ。志水くんも帰国子女って騒がれたくないみたいだしな」
緒方は煙を吐き、淡々と返した。頭の中では、星歌が流暢な英語で話す様子が思いだされていた。あの姿も芦原は見ていないんだな…と優越感のようなものが湧く。
「へえ、緒方さん、そういうとこ真面目ですね」
芦原はそう言って笑うが、本当にそれだけかな? やっぱり緒方さん、星歌ちゃんのこと好きなのかな…?と先日のアキラの言葉を思いだしながら考えていた。
芦原は自分の考えを打ち消すように言葉を続ける。
「緒方さん、星歌ちゃんともっと話したいんですけど、何話していいか分かんなくて。またカフェ、一緒に行ってくださいよ、緒方さんいると、なんか話しやすいし!」
顔の前で手を合わせ、芦原は緒方に頼む。緒方はタバコの煙を吐く。
「…ったく…。まァ、いいだろ…。」
そう呟きつつ渋々了承する。
「さすが緒方さん!ありがとうございます!
芦原は嬉しそうだが、緒方の胸には星歌と芦原が親しく話す様子が浮かび、ざわつきが広がる。
「芦原さん、志水さんのことばっかりだね」
近くに来たアキラが言う。
「星歌ちゃんかわいいから気になるよ。それより、アキラもまたカフェに連れてってもらえて、嬉しいだろ?」
「ボクは別に…。芦原さんがボクを引き立て役にしたいだけでしょ?」
「期待の新人、塔矢アキラの兄弟子、そして若手トップの緒方九段の弟弟子!棋士としてランクアップする感じあるだろ?」
芦原がアキラに得意げに話している。
「お前ももう少し頑張れよ」
緒方がそう言うと芦原は大袈裟に肩をすくめて見せた。