第1章 運命の出会い
だんだんと客が増え、店内に静かな賑わいが広がっていく。彼女は次々と注文を受け、コーヒーを運び、トレイを片付けてテーブルを拭く。その動きは実に小気味よくスムーズだが、見るものを急かすような雰囲気は少しもない。カフェでのバイト経験があるとはいえ、新人バイトとは思えない見事な動きだな、緒方は彼女の動きを観察するように眺めて感心していた。
カフェの常連でもある年配の棋士たちは、新人の女性バイトをあたたかく迎え入れ、気軽に言葉をかける。ある棋士は「キミみたいな子がいるなら、毎日来ちゃうよ」とニヤけた顔を見せる。別の者は「キミ、かわいいね、下の名前は何ちゃん?いくつ?」と尋ねる。「彼氏いるの?」と茶化すように聞く者までいる。口説くような言葉や私生活を詮索する質問に、ここをキャバクラやガールズバーと勘違いしてないか?と緒方は内心呆れていた。
一方で彼女は、そんな質問にも穏やかに応じている。
「名前は星歌です。高校2年生の17歳です。彼氏はいません」
柔らかな笑みを浮かべて言葉を選ぶように答えていた。大学生と思ったがまだ高校生か、17歳の割にはしっかりしているな、恋人に関する答えは余計な詮索を避けるために嘘をついたのかもしれないな、緒方はそう思った。恋人に関してははっきりとした根拠はないが、星歌のことを同級生の男子が放っておかないだろうと緒方には思えたのだ。彼女の雰囲気は店員であるということを差っ引いても感じがよいものだな…と考えてから緒方は、これじゃオレもジジイどもと大差ないな…と内心で自嘲する。
緒方は空になったグラスを置き、そろそろ引き上げるか、とジャケットを手に取る。そのときガラス扉が開き、緒方の天敵ともいえる桑原本因坊が堂々とした雰囲気で店内に踏み込んできた。