第30章 大雪のバレンタインデー
緒方は部屋の電気をつけ、エアコンを起動させる。少しあたたまれば十分だ…と、星歌を気遣いつつ、こんな時間に家に上げるなんて…と、葛藤が胸を締めつける。ケトルでお湯を沸かしながら、ココアがどこかにあったはずだ…とキッチンの棚を探す。
「適当にその辺に座ってろ」
星歌に声をかけ、寝室から毛布を持ってきて渡す。
「これであたたまれ、風邪引いたらマズいだろ」
星歌はコートを脱ぎ、ソファにちょこんと座って毛布に包まる。
「あったかいです」
その穏やかな笑顔に緒方の心臓が跳ねる。ココアができあがり、エアコンの温風が部屋をあたためる中、緒方はカップを星歌に渡す。
「おいしい…」
星歌の呟きに、こんな時間に、こんな雰囲気…緒方の胸に期待と不安が交錯する。
「寒い中、待たせて悪かった」
星歌と少し離れたスツールに座り、緒方が言う。
「私が来たいって言ったから…すみません。スマホの充電も切れちゃって…」
小さく謝る星歌を見て、オレもキミに会いたかった…と、言葉がのどまで上がるが飲み込む。こんなこと、言えるわけないだろ…と、心を抑える。しばしの沈黙が流れる中、星歌がハッとしたように尋ねる。
「今何時ですか?」
時計を見ると、23時40分。
「よかった、まだセーフだ」
星歌は小さく呟き、トートバッグから小さな紙袋を取り出す。バレンタイン…これか…と、心が高鳴る。
星歌が紙袋を差しだす。
「あの…緒方さん、これ、バレンタインなので…。美術館に連れて行ってくれて、お茶もごちそうになってしまって、いろいろありがとうございます」
「ありがとう」
紙袋を受け取ってクールに言うが、声がわずかに震える。こんな雪の中、これを…と、胸が熱くなる。
星歌が言葉を続ける。
「…緒方さん、あの、私、緒方さんのことが…」
声を震わせて俯きながら言う。言葉は詰まり、再び沈黙が続いている。星歌の赤くなった頬、小刻みに震える肩が緒方の心を揺さぶる。オレのために、こんなに勇気を出してくれて…。…ダメだ、もう自分の気持ちを抑えきれない。緒方は思わず、星歌を抱きしめた。