第25章 彼女の恋人?
「オレ、一柳の息子です。父がいつもお世話になってます。緒方先生が強くなってきたからウカウカしてられないって、この頃父はボヤいてます」
一柳棋聖の息子…ということは、志水くんのイトコか…と、緒方の胸のざわつきが静まっていく。恋人じゃなくてよかった…と、そっと安堵しつつも、いや、オレには関係のないことだろう…?とも思う。
イトコは緒方の微妙な心情を見透かすように、ニヤリとした。
「緒方先生、オレが星歌の彼氏だと思って、ちょっと焦ったでしょ?」
「何を言っている?」
「緒方先生、クールに見えて顔に出るって、父さんの言うとおりだな」
イトコはケラケラと笑い、言葉を続ける。
「最近、星歌に告白したいってヤツらから相談受けるんですよね。だから緒方先生、急いだ方がいいですよ」
「別に、オレには関係ないことだ」
「いやいや、年末に車の中で見つめ合ってましたよね?どう見ても普通の関係じゃないでしょ」
イトコは意味深長に言う。緒方をジッと見つめる目は、対局のときの一柳棋聖の強いまなざしを思い起こさせる。彼は棋士ではないはずだが、この視線は心を読みとられるようだな…。さすが一柳先生の息子だ、と緒方は思う。そして、あの日、星歌と目があったときのことを思いだしている。見られていたのか…と動揺はするが、後悔は少しも感じなかった。
「じゃ、お先に。星歌のこと、よろしく!」
イトコは軽く手を振って、緒方より先に降りる。緒方は1人残されたエレベーターの中で「急いだ方がいい」…と、イトコの言葉を反芻している。志水くんが誰かに告白される…?告白されたら志水くんはどうするんだ…?ソイツと付き合うのか…?いや、それよりオレはどうなんだ?それでいいのか…?星歌の笑顔を思いだし、年の差や棋士としての立場と星歌への想いの間で葛藤を繰り広げていた。