第16章 気になる過去 ❦
雅治が目を覚ましたのは、少し日が傾いた夕方前。
「繭結?」
空調の効いた部屋。
体にかけられた毛布が起き上がったからだからハラリ、と落ちても寒さは感じず、再び呼ぶ。
「繭結〜?」
部屋だろうか、とリビングを出て、繭結の部屋とした一方の部屋をノックする。
「繭結?居るがか?」
返事は無く、他にいる気配も無いので、繭結?と扉を開けた。
取り付けた照明を付けるが姿は無い。
「雅治さん?」
背後からの声に振り返ると、起きました?と濡髪をタオルで拭く繭結。
「すみません、せっかくのお休みを引っ越し作業でつぶしちゃって。
あ、お風呂入ります?」
湧いてますよ、と湯上がりで紅潮した頬で笑う。
「ふふ、そうだ。
雅治さん、ホストさんしてたんだって?」
「そがな古い事、どこから、」
「丸井さんに聞きました。
えーっと、『マイル』くん?から」
可愛い名前ですよね、と笑う繭結。
「世間勉強みたいなもんぜよ」
「雅治さん、名前、あったんですか?」
「言わないかんか?」
うんざりしたような顔に、知りたいです、と頷く。
「『ヨシキ』、」
「ヨシキさん?」
普通の名前、と繭結。
「バイトせんかと声をかけた先輩が好きじゃったロックバンドのメンバーから取ったんじゃ。
夜の色、と書いて『夜色-ヨシキ-』と読ませた」
「わー!
THE源氏名って感じ!」
「繭結、」
「はい?」
「髪、乾かし」
「無理やり話をそらそうとしてますね?
あまり触れられたく無い感じですか?」
「そう言うわけでもなかが...」
「じゃあ、知りたいです。
んーと、あっ、ナンバー争い?とかするんですか?」
「...おんし、なにをそんなに興味をもっとるが?」
「雅治さんのことなら何でも知りたいですよ」
「...ハッ!言いくるめられるところじゃった」
危なか、と胸を抑える雅治に、何してるんですか?と生乾きの髪をタオルで拭きながら聞いたが、答えは無く、当時のことものらりくらりとかわされて詳しくは聞けなかった。
「秘密主義めっ」
「人には触れられとぅない過去の100や200ある」
「多すぎるよっ
どんな経験してきたのっ!?三十路!」
「29ぜよっ!」
「ヤッパリこだわるんかいっ!」
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