第17章 閑話休題1
艶のあるグロスをとんとん、と唇に乗せる。
少し馴染ませ、ん、とグロスのキャップを閉める。
綺麗に巻かれた毛先。
それを作り上げた雅治は、メイク用品の隣に置かれたヘアアクセサリーのボックスから黒いヘアゴムを手にした。
「あ、下結びならシュシュがいいです」
「まあ、待ちんしゃい」
洗面台の三面鏡に映る繭結を、んー、と見た雅治は、コームを手にすると、ハチ上の髪を纏め、小さめにお団子を作ると、下ろした髪はニュアンス巻きにしていく。
ヘアオイルを手に取って馴染ませると、下ろし髪に手櫛を通した。
「雅治さん、本当の美容師さんみたい」
鏡を見て、最終セットをしてくれる彼に微笑む。
「金取るぜよ」
「えー?ヘアセットいくらですか?」
「60万」
「えっ!?
ボッタクリ!」
驚く繭結を上に向かせ、グロスで艶めく唇にゆっくりとキスをする。
「お釣りください」
「くくっ。
お釣りぜよ」
ちゅ、と今度は軽く口付けた。
玄関先でスニーカーの紐を結ぶと、立ち上がった雅治。
グレーのシャツにそれよりも少し暗いグレーのセンターラインパンツ。
黒の革のベルトとブラウン系のチェスターコートは、青銀色の彼の髪と統一感があるなかにアクセントになる。
「雅治さん、そういう服、普段も着たらいいのに」
リモートワークで在宅も多い彼は、用事らしい用事がなければ、スウェットが制服。
「惚れ直したが?」
「いつだって惚れてますよ」
黒のショートブーツのチャックを上げ、そのヒールでほんの少しだけ近づいた彼の顔。
「メガネ、似合います」
そう微笑みかけると、黒縁のそれの向こうの瞳が笑った。
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