第16章 気になる過去 ❦
旧居を後にし、大きな車を持つ桑原と丸井がドライバーになり、新居に運んだ荷物を整理する。
冷蔵庫の効きを確認していると、しばらく忙しいだろぃ?と先に出した料理とは別にタッパーを取り出した丸井。
それぞれに、レンジ500w5分とかオーブン10分程度、などと付箋がつけられている。
「アイツ、野菜食わないし、味付けにも好き嫌い激しいからな」
来い来い、と手招かれ、丸井に顔を寄せる。
「仁王が自分から近寄せるの、珍しいんだぜぃ。
特に女の子は」
え?と丸井を見る。
「昔、10年弱前かな。
まあ、いわば水商売?ホストクラブで一緒にバイトしたんだけど、2週間足らずで『性に合わん』って辞めたし」
「えっ雅治さん、ホストさんしてたんですかっ!?」
「先輩が店持ってさ。
『試しにやってみるか?』って、俺と仁王と後輩のキリハラってやつとやったんだぜぃ」
ちなみに俺の源氏名はマイル、とウィンクしてみせる丸井。
「向こうから盛り上げてくれればノるんだけどな。
基本、人見知りだし無口だし目つき悪ぃから、女の子から疎遠されがちなんだよ」
昔はそれはそれでかっこいいって言ってくれる子もいたみたいだけど、と、疲れた体の空腹が満たされたためか、広くなった新居の端でうつらうつらしている雅治を見る。
「幸村くんも言ったとおり、素直じゃねぇし捻くれてるし、腹立つ時もあると思うけど、アイツなりにちゃんとしようとしてると思うからさ。
まあ、浮気の心配は無いっしょ!
ゴーイングマイウェイなやつだから、流されるとかもないだろうしっ
それでも愚痴りたくなったら、いつでも店に来いよ
学生時代にイタズラやりすぎて先生に廊下立たされた事とか、真田ん事からかいすぎて練習でシゴかれた事とか、話してやっからさ」
「すっごく気になるワードがたくさん出てきたので、ぜひ」
「18年一緒にいりゃ、何でも知ってるぜぃ」
任せろぃ、とイタズラっ子のような笑顔を見せた丸井に料理の礼を告げる。
引っ越しの手伝いに来てくれた皆を見送って部屋に戻ると、取り付けたカーテンが開かれたベランダから差し込む日差しによってできているひだまりの中で、背を丸めてすう、と眠っている雅治がいた。
寝室のブランケットを持ってきて、ふわ、とかける。
「ありがとう」
お疲れ様、とそっとその頬にキスをした。
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